酵母
酵母は糖を分解しアルコールと炭酸ガスを生成する微生物である。昔から酒造りは、一麹、ニもと(酒母)、
三造り()といわれている。酒は、酵母という微生物の働きによって造られる。その酵母を純粋に大量栽培した
粥状のものを酒母と呼ぶ。その酒母を造る事が日本酒醸造工程では最も重要な工程となる。
普通、日本酒のを入れた桶(タンク)には蓋をかぶせない。この事は開放状態で発酵を行うという。開放状態と
いう微生物管理にとっては都合の悪い環境下で酒は造られていく。だから昔は酒造りに悪影響を与える酵母がまじり
こむ事がある。野生酵母と呼ばれる酵母である。この酵母は酒造場のどこかに棲みつき、麹や酒母に入り込み、増殖
する。この野生酵母は、アルコールの生成が悪かったり、酸を多く造って酒質を荒くする。又不快な臭いを造り出す。
野生酵母の汚染があっては、良い日本酒を造り出す事は出来ない。良い日本酒を造るには酵母管理を徹底する他に
方法がない。
野生酵母の侵入を防ぐには、酒造場を清潔に保つ事が基本である。又圧倒的多数の優良酵母を酒母に大量に投入
して、野生酵母に打ち勝つようにする事である。
つまり良い酵母とは
・目的とする優良酵母が多量に栽培されており、雑菌(野生酵母、バクテリア)が無い事。
・乳酸を所定量含有している事。
・酒母の使用時に、正常なの発酵に適した活性を酒母が持っている事。
以上3つの条件を具備する必要がある。
酵母(イースト)とは
酵母の大きさは約5μm(長さ5〜8μmX幅4〜6μm)程度である。
酵母は自然に広く住み着いており、多種多様な菌株があり、それぞれに特性を持っている。例えばビールはビール酵母
、ワインはワイン酵母、パンはパン酵母というように、利用目的に合った最適の酵母菌株を、それぞれ長い食物生産の
歴史の中で取捨選択して使い分けている。
日本酒酵母にも、長い年月をかけて選び抜かれた各種の優良日本酒酵母がある。日本酒酵母は、サッカロミセスセレビシェ
種のみであるとされる。
・上面酵母と下面酵母
上面酵母とは、の上面で活躍する酵母をいい、下面酵母というのは、の内部(表面より下)で活躍する酵母
の事をいう。酵母は酸素がある環境では「呼吸」(有酸素呼吸)をし、酸素の無い環境では「発酵」(無酸素呼吸)をして、
自分に必要なエネルギーを得る呼吸能、発酵能というのは呼吸する能力、発酵する能力を意味する。したがって上面
酵母(上面発酵酵母)は、酸素が豊富な環境のため、呼吸能が強く、発酵能が比較的弱い。一方、下面発酵酵母は
の内部にいる為酸素が乏しい環境にいる。その為呼吸能が比較的弱く、発酵能が強いのが特徴である。
協会日本酒酵母の種類と特性
現在、全国の酒造りに使用されている日本酒酵母の大部分は、日本醸造協会で純粋培養して配布する優良な協会
酵母である。
・代表的な酵母の特徴
<協会1号>
桜正宗(兵庫)の蔵で明治39年に採取。
<協会2号>
月桂冠(京都)の蔵で明治末期ごろ。
<協会3号>
酔心(広島)の蔵で大正3年採取。
<協会4号>
広島地方の蔵で採取。香りがよく、発酵が良い。
<協会5号>
賀茂鶴(広島)の蔵で採取。果実のような香り。
<協会6号>
新政(秋田)の蔵で採取。発酵力が強い。穏やかな香り。
6号は上面発酵的で、香りは7号に比べると穏やかで澄んだ香り。10〜15度の低温でも良く発酵し、の酸度は2.3〜
2.6.東京局では吟醸やわくちをはじめた昭和54年ごろに、香りをおさえたソフトな味の酒質向きであり、6号として選ばれた。
<協会7号>
真澄(長野)の蔵で採取。山田・塚原が分離に成功する。昭和21年の事であった。7号は下面酵母で呼吸能が比較的弱く
発酵能が強く、皮膜形成がやや弱い特性を持つ。10〜15度の低温でも良く発酵し、の酸度は2.5〜2.8。香りは華やか
で高い。現在の酒質の基本をなしている。
<協会8号>
東京醸造試験場で採取。6号の変種。酸が多く、濃醇。
<協会9号>
香露(熊本)の蔵で採取。昭和43年。低温でも良く発酵する酵母で、落泡以降も発酵力が強い。泡が軽く、低く、地になるのが
早い。一般的に日数は6号、7号より短く、酸度は2.3〜2.6。香気が華やかで、吟醸酵母として優れている。
<協会10号>
東北地方の蔵で採取。小川氏が昭和52年に分離に成功する。この酵母は東北生まれらしく低温発酵適性で、酸が少なく
淡麗な芳香のある吟醸酒を造る。又酸が少ないので純米酒などにも向く。低温性の上、アルコール耐性が弱いので、
末期に気温の影響などで12度以上になると止活しやすい。この為アミノ酸が増えるなどして吟醸風味が壊される事もあるので
品温管理に注意を要する。
<協会11号>
東京醸造試験場で昭和50年に採取。アルコール耐性7号酵母とよばれている。一般に酵母は中のアルコール濃度が
18度以上になると、衰弱してやがて死滅するが、アルコール耐性酵母は細胞表面の構造が従来の酵母とは異なる強度を持つ
為、20%までのアルコールを生成する事が出来る。この特性を利用して、相当に辛口の酒(日本酒度+8〜10)を造る事が
出来る。又、末期に死滅していく為、酵母の自己消化が起こりにくい。その為、製造酒は一般にアミノ酸が少なく、色が薄く
貯蔵中の着色が少ないという特性がある。
<協会12号>
浦霞(宮城)の蔵で昭和60年に採取。経過を長期低温にしたほうが芳香が良くでる。泡は低い。芳香の高い吟醸酒向き
酵母である。
<協会13号>
バイオ酵母といえる酵母で、協会9号と10号酵母を交配、結合させ、両者の長所をかね備えた酵母株を作り、選択した酵母
である。昭和60年度から全国的に配布されるようになった。この酵母は、親株の10号の特色、吟醸香が高く、酸の生成が少な
い長所を持ち、9号の長所であるアルコール特性が強い性質、すなわち末期に弱らない性質を持つので、温度が多少
動いても、きれが良く香りの良い酒が出来る。
<泡無し酵母>601号701号901号1001号
泡無し酵母は現在の協会1,7,9,10号から誘導した酵母である。これらの酵母は文字どうり、に高泡を生成しない
特性を持つ酵母のことを総称している。ただしで泡が立たないという事は、酵母のすべてがの中に浮遊して発酵して
いるという事で、高泡の親株よりも発酵が早く、強くおこる傾向がある。
<協会14号>
石川県にて採取、別名「金沢酵母」とも呼ばれる。酸が少なく、あっさりとした味わいを特徴としている。
<協会15号>
秋田県酒造組合と県農業試験場が開発した吟醸用酵母で、別名「秋田流花酵母(AK-1)」とも呼ばれる。酸が少なく、高い
吟醸香を特徴としている。
<秋田酵母 >
AK-3、AK-3F、AK-4(秋田流雅酵母)など。なお、AK-1(秋田流花酵母)は、協会15号として取り上げられた。
<岩手酵母>
岩手2号、岩手吟2号など
<山形酵母>
KA-1、KA9号、山形新酵母YK-2911など
<宮城酵母>
宮城B酵母など
<福島県酵母>
TUA、うつくしま夢酵母(F7-01)など
<栃木県酵母>
T-1、T-S、T-Fなど
<埼玉酵母>
埼玉C酵母、埼玉D酵母、埼玉CO-1など
<アルプス酵母>
長野県の酵母。含み香りが特徴で、燗にも向くらしい。
<新潟酵母>
G-9など
<岐阜酵母>
岐阜G酵母など
<愛知県酵母>
FIA1とFIA2の2種類。FIA1は低温でもよく醗酵し、酸が少ないため純米酒の醸造にむいており、FIA2は、香りが高く、
吟醸造りに向いているとされる。
<静岡県酵母>
HD-1、NO-2、New5など
<三重県酵母>
MK-1など
<近江虹酵母(KKK-9)>
<滋賀県の酵母>
<島根酵母>
<岡山県酵母>
岡山2号、岡山4号、岡山101号など
せとうち21号
<広島県の酵母>
<山口県酵母>
山口県9E、山口県9EMM、山口県9MSKA、山口県701、山口県9号酵母など
<高知酵母>
A-14、AC-17、土佐吟醸酵母CEL-19など
S-3
<越後酋楽会の酵母>
参加者 白井様のレジメ・日本の酒ベータベースを参考にさせて頂きました。